婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
「なんだか寝付けなくてさ」

「暇つぶし?」私は呆れたように目を細めて尋ねると、葛城はこっくり頷いた。

「生憎暇を潰せるようなものはないから帰って」

まあ、そういうな、と言って後ろ手に隠していた紙袋の中からワインとグラスを取りだした。

「ずっと飲みたそうにしてただろ」葛城はニヤリとわっるい笑みを浮かべた。

確かに、この誘惑には抗えない…。

葛城はワインだけではなく、おつまみのチーズまでくすねて来たようだ。さすが出来る男。

コルク抜きで栓を開けると、グラスに深紅の液体を注ぐ。

「乾杯」と言って私達はそっとグラスを合わせた。

一口ワインを口に含む。鼻を抜けるフルーティーな香りに濃厚で渋みのある複雑な味わい。

これは…、想像以上の味だ。

「そういえば、葛城さんってすっごくピアノが上手なのね。驚いたわ」私はワインをいただき上機嫌になる。

「小さい頃から習ってたから」

「へえ、ちっちゃい頃ってどんな子どもだったの?」

「品行方正な子どもだったよ。まるで双子たちみたいに」私は思わず噴き出した。

昔は悪戯ばっかりしていたこと、ピアノが本当は大っきらいだったこと、両親が家にあまりいなくて寂しかったこと。

アルコールで饒舌になり、葛城は想い出話を色々話してくれた。

「遥はどんな子だったの?」

「運動が大っきらいで、家で遊ぶのが好きだったわ。ずっと一人っ子みたいなものだったしね」

「今のまんま」

葛城が冷やかすように笑うので、私は肩を叩いた。
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