婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
そんな邪な考えを抱きつつ、中谷先輩とお出掛けの当日を迎える。

焼肉を食べに行くとの事だったのでカジュアルにTシャツとハイウエストのニットスカートを合わせる。

足元はスリッポンを履いて、鞄はちっちゃめのショルダーバックを引っ掛けた。

ちょっとカジュアル過ぎる気もするけど、ま、こんなもんか。

外へでると湿気を含んだ生温い風が身体にまとわりついてくる。西日になってもまだまだ気温が下がる気配はない。

地下鉄を乗り継ぎ、六本木駅で降りると、待ち合わせした商業施設へと向かう。

適当な入り口から中にはいると華やかな迷路に迷い込んだようだ。

ブランドショップが並ぶフロアを、額に汗を滲ませながら速足で横切る。

映画館の前で待ち合わせしたがあまりに広くて迷子になりそう…。

案内盤を見ながらようやく辿り着いたのは待ち合わせ時間を少し過ぎていた。

中谷先輩は既に来ていて、スマホを手持ち無沙汰にいじっていた。

「遅れてごめんなさい」私が慌てて駆け寄り、声を掛けると此方へ振り向く。

ああ…やっぱり、此れは此れで素敵だ。

少し日焼けした精悍な顔立ちを見て思わずクラリとしてしまう。

「もしかして迷っちゃった?」

「…少し」

額に浮かんだ汗で走ってきたコトが見抜かれてしまったようだ。

バツが悪くなり、私は赤くなって俯いた。

「そんなに慌てなくても大丈夫だったのに」その様子を見て中谷先輩はクスリと微笑む。

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