婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
「可愛い遥」匠さんは唇にチュッとキスをすると、ルームウェアの中にするりと手を差し入れて来た。

「だ、駄目です!」

私は慌てて手で押さえて阻止する。

「今日はここまでです」

「随分小出しだな」

と言って葛城は不満気に目を細める。

「ま、まだまだ結婚までの道のりは長いんですからゆっくりでお願いします」

わかったよ、というと渋々服の中から手を引き抜いた。

「そんなに時間があるわけじゃないんだけどな」

匠さんがボソリと呟いた。

私は意味が解らずに聞き返したが、あやふやにはぐらかされてしまった。

「でも、もっとキスはしたいです」

「可愛い奥さんのためなら」

匠さんが言うと私達は鼻先で見つめ合いながらクスクス笑う

それからまたどちらともなく唇を重ね、蕩けるようなキスをした。

どんなに沢山の人からキスをしてもらっても、やっぱり匠さんからのキスがないと、人生に幸せが訪れるとは思えない。

色ボケした頭の片隅でぼんやりとそんな事を考えた。



この時は匠さんの謎めいた台詞とタブレットのプレゼントに、本当はどんな意味が込められているかなんて、まだ知る由もなかった。
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