婚約者は突然に~政略結婚までにしたい5つのこと~
「そーいえば、自惚れ屋で自己中の御曹司はどうするんだって?」

悪口がさりげなく増えてる上に、匠さんも田中には言われたくないと思う。

私はさあ?と言って肩を竦める。

「葛城商事に入るんじゃないんですか」

「え?そうなのか?」祐介さんは目を見張って聞き返す。

「…お前何も聞いてないのか」田中の漆黒の瞳がじっと私を捉える。

「はい、特には…」

婚約者なのに何も知らないなんて呆れているのだろうか。

「まあ、葛城も色々考えるとこがあるんだろ。遥ちゃんも一度葛城とゆっくり話してみるといいかもね」

「でも今週は所用を足すとかでアメリカ行ってるんですよー。区役所感覚かい!って感じなんですけど」

私はあははーと笑ったけど、祐介さんと田中はシンとしている。

「か、帰ったら話してみます」

「…早い方がいうと思うぞ」田中は無表情のままボソリと言う。

「まあまあ、2人の問題だから」祐介さんは田中の肩に手を置いた。

何か含みのある感じだ。

「おっと、田中!そろそろ時間だぞ?!」

祐介さんは腕時計に目を落として焦りながら言う。

この組み合わせと言えば…

「雀荘ですか?」私は横目でチラリと視線を向ける。

「バレた?」祐介さんは屈託無く笑う。

「俺たちは日頃から努力を重ねているから、就職活動中だからと言って慌てることはないんだ」

田中は抑揚のない口調で言う。

「其れはご立派ですね」私はすげ無く返す。

佑介さんは「じゃ、またね」と言って爽やかな笑顔で手を振り、田中と一緒にカフェテリアを後にした。
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