魔王の娘が勇者になりたいって変ですか?
「わかりません」

 丹歌は首を横に振った。

「わからないとは?」

 新一が尋ねる。

「丹歌には記憶が無いのよ。
 カリュドーンの猪の時に記憶を失ったの」

 プレゲトンが丹歌の代わりに答える。

「丹歌ってなんだ?
 お前、テルヲだろう?」

 玉藻が丹歌に一歩近づく。

「ごめんなさい。
 俺にはなにもわからない」

 丹歌は、首を横に振る。

「どうしてだ?
 本当に何も覚えていないのか?」

 玉藻が、更に一歩近づく。

「ごめんなさい」

 丹歌は謝ることしか出来ない。

「なんでだよ。
 どうしてこんな……」

 玉藻の目が潤む。

「君たちは、丹歌くんの知り合いなんだろう?
 君たちも丹歌くんはテルヲくんに見えるかい?」

 正が、焔たちに尋ねる。

「ああ。
 どっからどう見てもテルヲだ」

 焔が答えるとサイアスも答える。

「そうですね。
 魔力もほぼテルヲくんと同じ感じです」

 そして、シエラも静かにうなずく。

「はい。
 雰囲気も話し方も、そのほとんどがテルヲのものと同じです……
 テルヲ、本当に私がわからないの?
 お姉ちゃんのことも忘れちゃった?」

 シエラが涙目で丹歌に尋ねる。

「ごめんなさい」

 丹歌は、静かに謝った。
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