初恋 二度目の恋…最後の恋
 静岡研究所に戻った私に、中垣先輩は「お帰り」とだけいい、あの告白に関しては何も言わない。恋愛に疎い私が上手い言葉を探せないのも分かっているのかもしれない。頭のいい人だから、聞かなくても分かっているのだと思う。そして、私もその優しさに甘えることにした。もしも、そういう感情で揉めると仕事にも支障がくる。


 それくらいだったらお互いに触れないのがいい。

 
 中垣先輩とはお互いに研究に携わる人として接するのが一番いいのではないかと思う。尊敬はしている先輩ではあるけど、それ以上ではないのはお互いに分かっている気がした。今も一緒に働いているが、東京北研究所と同じだ。


「すみません。所長に書類を出してきます。それとついでに中庭を歩いてきます」


「ああ。俺は新しいプロジェクトの話し合いに行ってくるので、今日は適当に帰っていいぞ」


「はい」


 一つのプロジェクトが終わると新しいプロジェクトが始まる。そんな激動の中の静けさはそんなにない。早く帰れる日も少ないので、私は中垣先輩の言葉に甘えて帰ることにした。


 所長に資料を提出してから私は中庭に向かう。


 少し汗ばみそうな天気だけど、ちょっとだけ日に当たりたいと思う。太陽の光を身体に浴びると…元気になれるような気がするからだった。だから、少しの時間を見つけては私は中庭に出て、空を見上げる。空を見上げると思うのは小林さんで、今は何をしてどうしているのだろうということだった。

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