初恋 二度目の恋…最後の恋
 高見主任が営業室に入ってくると一瞬で空気が変わる。さっきまでの和やかさが嘘のようにピーンとした空気を感じた。さっきまで笑っていた一課の人たちは一瞬で表情を変える。

 
 その顔は真剣そのもので…。私も息を呑む。


 主任は自分の席に着くと、にこやかに微笑む。私はその微笑みを怖いと思った。顔は笑っているのに、雰囲気は厳しさを漲らせる。柔らかく染み込むような優しい声が営業室に響く。優しいのに怖いと思うのは何故だろう。


 朝の様子じゃ、みんな目標を達成していて…あとは追い込みという感じだったのに、そういう雰囲気とは違う。


「結果を聞こうか」


 営業室に溢れるのは実績の上がった数字。数字。数字。


 ここが会社の最前線というのを感じさせる。営業部の中でも選り抜きのエリートたちは弾き出す数字も桁違いだった。全ての営業が報告を終わらせると、また、高見主任は綺麗な顔で微笑む。そして、辛辣な言葉を紡ぐ。


 愛を語らせたらどんな女でも堕ちるのではないかと思うくらいの魅惑的な声。でも、営業室内の温度を明らかに下げていく。


「このようなもので満足していたら、先はないです。もっと自分を研鑽して仕事に臨むように。では私の成果も報告させていただきます」



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