初恋 二度目の恋…最後の恋
 次の日の朝、いつもと変わらない穏やかな微笑みをした折戸さんは私の机のところに一冊のファイルを持ってくる。そして、眩いばかりの微笑みを私に向ける。



「坂上ちゃん。じゃあ行こうか?今日はよろしくね」


 折戸さんは高見主任とはまた違う魅力に溢れている。知識溢れる高見主任はしっとりとした深緑だとすると折戸さんは艶やかな花だと思う。モデルのように引き締まった体躯にサラサラのライトブラウンの髪。その下には綺麗と言った方がいい顔があって、その声は優しく穏やか。


 おとぎ話の中の王子様と言った容貌の折戸さんは今日も華やかさを漂わせている。


 個性的な人の集まる中で折戸さんはムードメーカーで世話焼き。メタリックのアタッシュケースを持って準備万端な状態で私を見つめている。さっき、私の机の上に置いてくれたのは今日訪問する先の情報の詰まったファイルなのだろう。

 
 穏やかな折戸さんの雰囲気に私はドキドキしてしまう。初めての同行に緊張しているのは私だけらしい。



「よろしくお願いします」


 私がそう言うと折戸さんはニッコリと微笑んでくれる。高見主任との同行には慣れたけど、折戸さんは初めて。やっぱり緊張は隠せなくて言葉少なになってしまう。


「今日のお昼はどこにしようか?高見主任とあちこち行ったでしょ」


 折戸さんの言う通りで、私はこの半月で間違いなく舌が肥えて贅沢に慣れたと思う。高見主任はどんなに言ってもお金は受け取ってはくれないし、最後の辺りは申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

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