初恋 二度目の恋…最後の恋
「たくさんご馳走になっちゃいました。申し訳ないと思うくらいです。でも、私には払わせてくれなくて」


「甘えていいよ。だって高見主任が良いと言ったのでしょ。あの人はどんな時でも女の子に払わせたりしないよ。それに、男にもプライドはあるし。今日は俺がご馳走するよ。期待してて」


「でも…。」

「高見主任だけでなく、俺にもプライドはあるから断らないでね」



 そこまで言われると勿論断ることなんか出来ない。


「じゃ、期待します」

「うん。そうして」


 クスクス笑いながら、折戸さんは廊下を抜け駐車場に向かう。エレベーターで一気に地下の駐車場にまで行くと社用車の一台に乗り込んだ。いつも笑っている朗らかな性格の折戸さんは今日もいつもと変わらない。今日は大事な商談の日だというのに、この緊張感の無さはなんなのだろう。


「30分くらいで着くと思うから、それまでにさっき渡した資料を見ていてくれる?大事な商談だから坂上ちゃんの力が必要なんだよ」


「でも、私。何も出来ないですよ」


「そう?じゃ、出来ることだけしてくれたらいいから」



 そして、信号で車を止めると、しっかりとした視線を私に向けてくる。綺麗な顔で覗き込まれるとドキッとしてしまうのは私が人に慣れないからだけじゃないと思う。女の子なら誰でも息を呑むほどの華やかさ。ナチュラルブラウンの瞳が優しく私を見つめていた。


 光を浴びると透き通るような瞳の深さに吸い込まれそうになる。




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