強引男子にご用心!

「ちょっと……何なの」

それはこっちの台詞だと思うけど、じりっと近づいて来た。

近づいて欲しくないし。

香水くさいし。

化粧品も臭いがきつい。

こういう時に逃げたら相手の思う壺だと思うし、こういう時には誰かが助けに来てくれるのは定石だけど……

世の中そんなに甘くはないわ。

そんなご都合主義は滅多にないわよ。

と、すると、自分でどうにかしなくちゃならないから……

「いい加減にしなさい。今は就業中で、私は真面目に仕事をしているの。これ以上邪魔をするなら、営業部に苦情いれますよ」

「…………」

どうにか彼女達は止まった。

何故か慌てたようにお互いに顔を見合わせて、それから私を睨むと、プイッとその場を去っていく。



「…………」


た、助かった。

“先生に言いつけます”戦法が有効だとは思わなかった。
やっぱり社会人だしね、流石にマズイと解っていらっしゃる。

きっと営業部内部では、猫被っているんだろうなぁ、彼女たち。


「女の戦いは怖いねぇ」

「ひっ……」

恐る恐る振り返ると、見えたのは邪悪な笑みを見せる磯村さん。
それから、何故か困惑気味の……確か、企画室の山本さん。

「……見ていらしたんですか?」

「この廊下見通しいいし。近づいてみたらあんただったから驚いた」

それはそれは……。

助けて貰った事になるのかな。

いやいや、見てたらもっと早くにどうにかできたと思うのだけど?

……でも、ワザワザややこしい場面に首を突っ込んで来る人は珍しいか。

「……そんなに威嚇しなくても、猫みたいだな、あんた」

「れっきとした人間です。構わないで下さい。貴方が構ってくるからああいう事に私が巻き込まれる……」

磯村さんは何を思ったのか、ずいっと近づいて来たから一歩下がる。

「構われてる自覚はあるんだな?」

「あ、あからさまでしょう。総務部に来ては名指しして来るし」

またずいっと近づいて来たから、また一歩下がる。

「あんたに頼んだ方が話早いし」

「ほ、他にも職員はおります! 今後は気をつけて下さい」

背中を向けてダッシュすると、後ろから笑い声が聞こえた。

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