強引男子にご用心!

「ちょっと良いですか、伊原さん」

可愛い顔や綺麗な顔。
数人の女子に囲まれて立ち往生。

確かこの制服は営業部の事務かしら。

「磯村さんの事なんですけれど」

間違いなく、営業事務の人みたいね。

「なんなんですか、最近、磯村さんに言い寄っているんですか?」

滅相もない。

「鏡、見たことあります?」

そりゃ、毎日見てるわね。
汚れていたら嫌だもの。

「年齢、考えました?」

年齢……年齢は今年で29だよね。
来年で30歳か。
貯金頑張らないといけないかな。

……と、言うよりも。

今時、こんな経験は貴重かもしれない。
私、こういう事は空想の世界の、いわゆるストーリー盛り上げる為にある演出だとばかり思っていた。

あるんだな~実際に。

「何か言ったらどうなんですか」

「何を言えばいいの?」

逆に聞きたいですよ。
聞かれた事に答えればいいの?

「磯村さんに言い寄ってないし、鏡は毎日磨いているから見ているし、来月中に29になるけれど。そんな事を聞きたいの?」

それなら、どうしちゃったの貴女達……と、逆に聞きたくなるけども。

「違います! 磯村さんに言い寄られてるのに、なびかないのは何か思惑があるんじゃないかって聞いてるんです」

思惑?
思惑と言うか……

「迷惑です」

キッパリ申し上げるとそうなる。

「忙しい時に名指しで呼ばれる事ほど迷惑な事はないです。あれを言い寄っていると仮定する方もどうかと思いますが、どうなんです?」

「ど、どうって……」

「勝手な憶測でモノを言うのは、それこそ勝手ですけれど、そういうことはせめて人を巻き込まないで頂きたいです」

仕事中だしさ。
経理部に行きたいのに通せんぼされてさ。
私が何と答えれば満足するの、貴女達は。

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