強引男子にご用心!

「何だお前、飯食ってねぇの?」

「………………こ、これから食べる」


なんてタイミングで鳴るんだ、私のお腹!

ちょっと恥ずかしいよ?

いや、かなり恥ずかしいよ?

メチャクチャ恥ずかしいよ!

真っ赤になった私を、ニヤニヤと眺める磯村さんは楽しそう。


「飯食いに行くか?」

「やだ。シャワーも浴びれてないし」

「浴びればいいじゃねぇか」

いや。
さすがの私も、男の人を部屋にあげて呑気にシャワー使えないよ?

さすがにどうなの?

それは違うと思っているよ?


「俺の事は気にすんな。別に覗かねぇし。見るときは正々堂々見るから」


全く違う問題になってます。


「む、むり」

「脱がせてやろうか?」

「もっと無理!」

「減るもんでもねぇし」

「やだ! やだったら嫌!」

「しょうがねぇ奴だな」


磯村さんはコートを手に取ると、そのまま立ち上がって玄関に向かった。

「どっちにせよ、今日は疲れてるから帰る。明日の休みは暇か?」

「え。うん……」

掃除するくらいだけど。

「明日デートしよう。部屋にこもってばかりじゃ気ぃ滅入るしな?」

「……うん」


玄関に向かうと、靴を履いた磯村さんが顔を上げる。

玄関の段差分、いつもと違う、近い目線が不思議な感じ。


「素直で気持ち悪ぃなぁ」

「デ、デートしてあげるだけじゃない。それくらいはします」


小さく笑う磯村さん。


「ツンデレかよ」

「何の話……っ」


ぐいっとシャツを引っ張られ、よろけて腕の中。


「ちょっ……」

顔を上げると、そこに悪戯っ子みたいな笑顔が間近に見えて、


苦笑がもれた。


ゆっくり目を瞑ると、唇が重なって……


暖かい。


正直、人の暖かさはまだ慣れないけれど。


だけど、どこか心地いい。


そう思える様になったのは、いつの頃からだろう。

気持ち悪いとか、触れないとか、そんなことは考えずに、


触れる。


とても不思議。


そして、ゆっくり離れていく暖かさに、少しだけ寂しさを感じる。


瞼を開けると驚いた様な表情で、コツンと額が合わさった。


「ヤバイ」


はい?


「少しは抵抗しろ」

「え?」


していいの?

と言うか、したらしたで余計大変そうな気もするけど。


「……帰るな?」

「う、うん? また明日」

「起きたら連絡する」

「うん」

閉まるドアを見て、鍵をかける。

それからノロノロといつもの帰宅時と同じようにシャワーを浴びて、着替えをして、ソファーに座る。

ローテーブルに残された、二つのティーカップ。


……洗わなきゃ。


機械的に動きながら、洗い終わったカップやティーポットを棚に戻してまたソファーに座る。


「…………」


い、色々、ありすぎでしょうっ!?

ありすぎて頭が追い付かないんだけど!


そもそも色々な事が急展開過ぎない?

何だか、色々……

色々……
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