強引男子にご用心!

「煮魚食いたいな」

「え?」

「前住んでたとこなら、近所に居酒屋とか定食屋があったんだが、こっちはファストフードやら、洒落た店しかねぇし」

「自炊しないんですか?」

「するように見えるか?」

見えないけど。

見えないが、


「何故、私を眺めるんですか」

「そう言ったら作るかな~と?」

爽やかな営業スマイルが飛び出して眉をしかめる。

「作りませんよ。だいたい磯村さんを家にご招待するつもりもないですから」

「冷てぇな」

「なんとでも。か……」

んけいないと言いかけて、口を閉じた。

関係ないは、言わない方がいいように思う。

挙げ足とられそうだし、取られたくはないし。

無言で買い物を続けると、苦笑しながら磯村さんは離れていった。

それきり会わなかったけれど、自炊をしない人の買い物は少ないだろうし、早く終わるよね。

買ったもので膨らんだエコバックを自転車のカゴに入れ、マンションに着くと駐輪場に向かった。

実家から離れてかなり経つ。
このマンションに来てからは5年くらいかな。

利用するのは希だけど、駅前まで歩いて5分圏内。

近くにコンビニも清潔そうなスーパーもあるし、なかなか好条件だと思う。

家賃は少し高いけれど、オートロックにプラス管理人さんは24時間体制。
寝室とリビングは別れてるし、バス・トイレはもちろん別。

これは譲れない。


「遅かったな」

声を掛けられたのは後ろから。

目を丸くして振り返る。

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