妹と彼氏が××してました。
「美鈴さん。七番テーブルお願いします」

「了解です」

現在の時刻は夜の7時。サラリーマンから塾帰りの学生まで様々な人がこの居酒屋を訪れる。

結論、よってこの店は戦場と化す。

さきほどからホールの裏では謎の怨念に満ちた声がぶつぶつ聞こえる。言っているのは主にマスター。今なら過労で死にそうな気がするよ、生きろ、マスター。



「お待たせいたしました。ご注文は?」

「えーと…Aセットで…お前は?」

「私もー」

なんて仲の良さそうなカップルを横目に淡々とマニュアル通りの言葉を紡ぐ。いいねえ、なつやすみでさぞいちゃついてるんでしょう。爆発しろ。

「かしこまりました。」

うん、辛い。もう、色々と胸にくる。疲労と、心の苦しさとで涙が再発してしまう。いや、やめてよこんなとこで。

突然動きが止まった私を不思議そうに見るカップルの目線が痛くて。一礼してすぐに注文を取りに行く。

早く、早く。

次の仕事を。



「七番テーブルAセット二つです」

「おっけー。次は一番テーブルね」

「了解しました」



一つ注文を取るとまたたて続けに注文がくる。

任せられた仕事を汗だくになりながら行っていると、

「美鈴ちゃん、お疲れ様。上がっていーよ。賄は裏に置いといたからね」

「すみません、タッパーに入れて持って帰って良いですか?」

「うん、もちろん」

マスターの優しい声が私の頭上から聞こえる。正直、体にも心にも限界が来ているので素直に上がらせていただく。

帰る支度をのろのろとしながらぼんやり考える。

失恋して仕事に全てを捧げるって私には無理だ。



「お疲れ様です。」



友人に会う気力もないまま、店を後にした。
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