心動
聞こえない声の暴力

学校にも慣れてきた時、ある事件が起きた。

「菫ー?どうしたの?」
下足ロッカーで立ったまま動かない菫に梅が声をかけた。
菫は開けていたロッカーを閉めて、微笑んだ。
「上靴忘れてきちゃった。」
梅はきょとんとした顔をして、首を傾ける。
「いつも持って帰ってるっけ?上靴」
と聞くと、コクコクと首を縦に振る。
菫の頬は赤い。
「?んー、スリッパ借りてきてあげるよ!」
梅は少し疑問も湧いたが、とりあえず学校の来校者用のスリッパを借りに行くことにした。
菫は梅が行ってくれてる間、持って帰ったはずのない上靴がどこへ行ったのか不思議に思いながら、梅を待った。

教室に行くと、いつも通りの席についた。
隣の席の榛名はまだ来ていない。
梅は、担任に用があると教室を出ていった。

菫は鞄の中に入っている教科書を机の中にいれる。
その作業の中1人の少女が菫に近づいてくる。

「菫ちゃーん、おはよう」
高い声が教室に響く。
ドキッ
菫の心臓は跳ねあがった。聞き覚えのある声だったからだ。

「忘れちゃった?私のこと、ひどーい」
振り向くと、茶髪でポニーテールに髪を結んだ少女が立っていた。

「え?この可愛い子が菫ちゃん?」
他に3人連れていた中の一人が言った。
「そうだよー、変な力持ってる菫ちゃん」
ポニーテールの少女が言った。

菫は下を向く。
「なんで目ーそらすの?怖いの?」
菫は見覚えのある姿に、冷や汗をかく。

「中学一年以来だね!元気してた?」
にっこりと笑う。

「そうねー、私はとーっても会うの楽しみにしてたんだー?菫」
そう言うと、菫の座っていた椅子を思いっきり後に引いた。
ドタッと床に尻もちをつく菫。

「ははは、鈍い!超鈍い!変わらない!」
『なんで、またこんなやつと一緒の学校?』
心の声もたくさん入ってくる。
「菫は可愛いからねー、みーんな寄ってくる。私はいらない子だものー、でも、菫がいなかったら、私は普通にいらなくない子だったのに」
『ほんとに嫌い、何が可愛いの?』
『やめちまえ』
『ボロボロになったらいいのに』
『仕返しだよ?中学の時の』
『憎い、ほんとに憎い』
菫の顔はみるみる真っ青になっていく。
「一年B組の皆さんはもう聞いたのかしら?この子の変な能力ー。何もかも見透かされて、突き落とされるよ?魔女だもの」

その場にいるクラスメイトがざわつく。
梅はまだ帰ってこない。
足が震えて、立てない菫は体育座りで小さくなる。
「何?ほんとにうざいなぁ!!何か話しなよ」
『お前が悪いんだよね』
『あんたのせいで滅茶苦茶』
『あんたさえ、いなければ』

『菫ちゃん何があったの?』
『魔女って何?』
『え、なに、あいつやばめなやつ?』

『消えてしまえば良かったのに』

思わず、飛び交う心の声に耳を塞ぐ。
「なんで耳塞ぐの?」

『梅ばっかり頼って』
『梅が可哀想』
『きっと面倒だと思ってるよ』
『梅は本当は我慢してるんだから』

「やめてよ!!!!」
菫が今までに出したことのない声で叫ぶ。
「お願いだから、静かにしてよ」

皆がざわつく。
「でたでた。被害妄想魔女。聞こえないものが聞こえる?頭おかしいのは相変わらずね!」

「やめて・・・やめて」
耳を塞ぐけれど、心の声が強すぎて声がなりやまない。
けれど、それは菫にしか聞こえないもので
1人戦っていた。
涙もありえないほど、流れてくる。
「いやいやいやいやいやいや!!!」

教室からは菫の精一杯の声が響きわたった。

教室の周りはその声で集まった生徒達が何事かとのぞき込んでいた。
「菫、あんたにやられたこと、私が倍で返してあげるから」
ポニーテールの少女は、菫の手首を掴んで引っ張ろうとした。

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