偶々、
最後に何か言葉があってもよかったのに。またね、とか。次の約束とか。何も交わさないまま。


田中さんは入り口に近い窓側の席になだれ込み、その姿に流し目で見ただけで自分の席を確認する。

通路側で落ち着かないのは斜め先の方に田中さんがいるからか、それとも席を立つ乗客が通る度に微かな風が舞うからなのか。


ホームに置いてきた思いを無視して東京へ向けて走り出した新幹線。

それまで外にいたわたしは、車内の暖かさにまるで泣いた後みたいに鼻水を啜る。


待ち続けた乗客は疲れからか次々と眠りに就いて、温まる身体にわたしもうとうとと睡魔に従った。


ホームで在ったことが、まるで夢でも見ていたんじゃないか。そう、現実逃避がしたくて夢を見ていたんだ。

自分に都合のいい夢を…。
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