偶々、
何か話さなければと、せめて連絡先くらい教え合えたらと、頭の中でぐるぐると回る考えは吐き出す白い息のように空中へと消えていく。


ホームに近づく列車。それを捉えた時。

乗り込んでしまえば、きっともう2度と会えない人。

時間を潰すための巡り合わせで、偶々出会った人。

明後日から仕事がまた始まって、何もなかったかのように記憶から抜け落ち、偶々出会ったからもう2度と会えない人。なんだと、切なくなった。


列車がホームに到着し落下防止の扉が開くと、くたびれた人たちが乗り込んで行く。少しずつ進む歩幅が重たくなる。


わたしの前にいる田中さんが車内に吸い込まれて行って、それに続けてわたしも流れて行く。

本当にこれで終わりなんだと確信する。
席を教え合わなくてよかった、やっぱり偶々は続かなかった。
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