偶々、
席に戻るとシートの上に四角い紙きれが落ちていた。紙を拾い上げ腰を落ち着かせる。

手にした紙の触感は厚紙のようだった。誰かが落としたものだと思ったその紙を何気なく見てみる。


「…えっ」

思わず出た声に慌てて口に手を当て辺りを見回す。


ぼんやりとタバコを吸っている人もいるが、寝ている人が大半でわたしの声で起きた人はいない様子。

恐る恐るまた紙きれに視線を落とし、まるで暗記でもするかのように文字の羅列を凝視する。

たまにひっくり返してみたり、またひっくり返し、表裏を丁寧に確認して見落としがないか何回も心の中で繰り返し読み上げた。


落ち着かない鼓動に堪らずタバコを出し火を灯す。白い煙の向こうの白い紙きれを持つ手が震える。


その紙きれは一枚の名刺だった。
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