《短》最初で最後の彼氏

「ただいまー」
「おかえりなさーい」

実咲と遊んでから、家に帰ってリビングに行ったら、いつも帰りが遅いお父さんがいた。

「あれ?今日はやいね?どうしたの?」
「あーちょっとな。あれだ。あれ。」

いつもハキハキしていてかっこいいお父さんは今日、なんだか元気が無い。

「なんかあったの?どうしたの?」
「あなた。はやく言う方がいいですよ」
「あーーそうだな。おい桜。大事な話だちゃんと聞け。」
「?わかった」
「……引越しだ。」
「えっ!また?」
「すまない。」
「あなたは悪くないですよ。桜。荷物をまとめなさい」
「せっかく友達もできたのに?学校に慣れてきたのに?いつ?引越しはいつ?」
「三日後だ。」
「きゅうだよ!無理!」
「桜!いい加減にしなさい。お父さんも悪いと思ってるの!お願い」

お父さんのことはいつも「あなた」と呼んでるお母さん。でも、お父さんと呼ぶときは怒っている証拠だ。

「…わかった。荷物まとめてくる。」

そう言って自分の部屋に行った。
私に家は引越しが多かった。今回で8回ぐらいだろうか。仕事の都合で。

「もうやだ」

自分の部屋で声を押し殺して泣いた。


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