素顔のマリィ

残業を終え、わたし達は懐かしい有明のスペイン料理の店にいた。


「ほんと、薄情な奴ですよね」

そう言いながらも再会を喜ぶマスターは、カウンターを挟んでわたし達二人を繁々と見つめた。

「二人はほんとに別れたの?」

わたし達の様子が二年前とさほど変わらないのを訝しがってマスターが訊ねてきた。

わたし自身、山地に対する気持ちに変わりがないことに驚いていた。

そもそも、わたしは彼に恋愛感情を抱いていなかったのだ。


「えぇ、まぁ、そういうことになるのかな?」


「二年も音信普通は、はっきり言って確信犯だね。

こら、裕輔、女性に対して失礼だぞ」


マスターに睨まれて、裕輔は小さく肩を窄ませた。


「俺は別れたつもりはねぇし」


そんな憎まれ口をききながらも、山地の顔は笑っている。

久々のパエリアを囲んでワインを飲む。

彼が居なくなってから、一人でこの店に来ることはなかった。

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