素顔のマリィ
ガラリ、とドアを開けた瞬間広がる、少し埃臭い油の匂い。
胸がキュンとなる、懐かしい感じ。
わたしの琴線に触れるのは、何故かいつもこの匂いなのだ。
「お邪魔しま〜す」
不思議な感覚に誘われ、わたしは部屋の中へと進んだ。
最上階にある北向きの美術室は、少し天井が高く、少しだけ開けられた窓から心地よい風が吹きこんんでいた。
なかなか良い空間じゃない。
わたしは丸二年間、この心地よい場所に触れなかったことを早くも後悔し始めていた。
この懐かしさは何だろう?
所狭しと並べられたイーゼルには、恐らく美術部員の製作中の作品だろう、いくつか白い布がかけられていた。
わたしの直感が、一つのイーゼルに引き付けられていた。
この絵を観たい。
観てもいいかな?
ちょっとならいいよね。
わたしは、居てもたってもいられず、その布の一つをめくってみた。