素顔のマリィ

内定から卒業までの半年あまり。

わたしはバイトに精を出し。

卒論に没頭し。

美術館に足を運んで癒された。

そして残った時間を旅行に当てた。

多分就職したら、旅行に出る時間など暫くは持てないだろうと思ったのだ。


時間が許せば、自然を求めて一泊か二泊の旅に出た。

電車を乗り継ぎ、山道を歩き、海を眺め、橋を渡った。


美しい景色はわたしに絵を描きたい衝動を起こさせた。

時に気が向けば、小さなスケッチブックに鉛筆でその思いを描きとめたりもした。


でもね、そうすると嫌でも思い出してしまう。

流加と過ごした美術室での数ヶ月を。


絵は心を映す鏡だもの。

わたしの描く絵は、流加と一緒に見たい想いが見え見えだ。

っていうか、彼と見たい景色を絵にしている自分が見えて怖かった。


やだ、わたしったら、まだ流加に囚われてる。

流加を忘れていないんだ。


この想いは就職して社会人となって、流される日々に乗っかれば振り切れるものだと。

その時のわたしは、そう信じて疑わなかった。
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