素顔のマリィ

なんだかちょっと、毎日が楽しくなってきた。

わたしは山下さんの教えの通り、自分の感性を磨くことに邁進した。

彼の話をわたしなりに受け止めて出した答えは、好き嫌いを抜きにして、芸術は先ずは味わえ、ということだ。

漫画もアニメも、日本画も陶芸も。

わたしは、ジャンルを問わず、美術・工芸・現代アート、芸術に関わる書物を片っ端から読み漁った。

そして、できるだけ足を運んで現物を見た。

都内の美術館、東京近郊の美術館。

デパートや画廊開催の絵画展にも、できるだけ顔を出し、公開映画は欠かさず観た。

わかっても、わからなくても。

良くても悪くても、好きでもきらいでも。

わたしの中に響く何かを探して。


「いやぁ、坂井がコミケに誘ってくれるとは感激だな」


わたしは現在、年末に有明国際展示場で開催されるコミックマーケット(通称コミケ)に入場する為、山地と一緒に長い列に並んでいるところ。

「凄いね」

わたしはあまりの人の多さに、驚き過ぎて他に言葉がみつからなかった。

九時半の開場から、かれこれ三十分が経過している。

「全国からコミック好きが集まる大イベントだからね。

でも、ネット全盛の今、これだけ生で人が集まるって、ある意味凄いだろ?」

確かに。

フリフリのワンピースに真っ赤なタイツ、ワンベルトの黒いエナメルの厚底靴を履いた若い女の子。

髪を緑に染めて固めて、目の周りを真っ黒に塗った、黒ずくめの男の子。

多分、わたしが知らないだけで、何かのコミックかアニメのキャラクターに扮したコスプレなのだと思う。


これもファッション、っていうのかな……


一見ちょっと普通に見えない彼らだけど、みんな大人しく、長い列に並んでいる。
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