マイ リトル イエロー [完]
彼は、私の幸せのハードルが低すぎる、と海外旅行雑誌の山と一緒に訴えかけてきている。

私の名前は、おばあちゃんが決めてくれたそうだ。

私のおばあちゃんは若いうちに夫(私にとってはおじいちゃん)を亡くしてしまい、女手一つで私のお母さんを育ててきた。

お金が無くて大変だったけど、自分の子供のわずかな成長や、小さな幸せの積み重ねがあったから、それに気づけたから、笑って生きてこれたのだと。

だから私にも、そういう日々の小さな幸せに気づける子に育ってほしい。そんな願いが込められていたのだとか。

私はそのことを聞いたとき、正直幼少期はあまりピンとこなかった。

でもここ最近大人になって、おばあちゃんの願いの意味を、ひしひしと感じている。

私と聡真さんを結び付けた出会いも、その小さな幸せがあってこそのものだったから。


「……じゃあ、とりあえず海外旅行は夏季休暇に行こう」

「分かった。聡真さんどこに行きたいの?」

「んー、グアムは行き飽きたしなー。ドイツとかどう?」

「いいねっ」

「決まりだな」


……あんな風に他愛もない会話ができたのは、聡真さんが大きなプロジェクトのリーダーに任命される前の話だった。

夏を過ぎてから聡真さんは日に日に帰ってくる日が遅くなり、ただいまより疲れた、という言葉が先になる日々が続いた。

私も私で、この家にずっといることが嫌になりだして、外で働くことを聡真さんにお願いした。

最初は不服そうだったけど、最後は考えることに疲れたのか、殆ど投げ出したようにそのことを了承してくれた。


それからだった。少しずつ、結婚1年記念日に見たあの黄色が、霞みだしたんだ。

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