眠れぬ夜に
空き家
『女の人が婆さんに硫酸かけて殺したらしい』

私の家の近所にある空き家には
そんな噂があった

その空き家は
小さな木造二階建て
人が住まなくなってどれくらい経つのだろうか
老朽化が進み
今にも倒壊しそうな雰囲気だ

噂の真偽を大人達に尋ねても
『ただの空き家だ』
私達の期待するような答えは返ってこない

実際、そのような事実はなかったのだろう

その不気味な風貌から自然発生した
都市伝説のようなものだろう

しかしその手の話は少年達の大好物だ

曰くつきの廃屋が近所にあれば
肝試しの名所となるのはごく自然な流れだろう

かく言う私もその口だった

小学校低学年の頃
誰からともなく
肝試しの話が持ち上がった

内心は怖がっていたが
その時分の男の子というものはそれを恥とするものだ

誰一人として反対はしない
引くに引けぬまま
肝試しは決行される

窓は全て板が打ち付けられ
正面の玄関も完全に封鎖されている

ただ一箇所
二階の裏手の窓だけは
打ち付けた板が腐敗し
子供なら楽に通れる穴が開いている

裏手は崖になっており
そこから二階部分に渡れる

私達は崖の上側から降っていくルートを選択した

下から登ると
正面の通りから丸見えとなり
大人達に見つかる可能性があるからだ

裏手の崖を廃屋とは反対側から登り
頂上から廃屋を見下す

と、板に開いた穴から人影が見えた

数人の子供のようだ

先客がいたらしい

私達はがっかりした素振りで
内心はほっとしていた

人数が多いほど
恐怖は分散される

『行こうか』

私達は廃屋へと向かった
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