僕と三課と冷徹な天使

残業

僕が決めた一日のノルマを
コオさんにチェックしてもらって
今日はあと2ページやることに決めた。

総務三課に僕とコオさんは二人きりになった。

新入社員は、朝の始業前に
自分の課の掃除をするのだが、
三課の新人は僕一人なので、
コオさんに手伝ってもらっている。

その時も二人きりだが、

朝、これからみんなが来る、
という状態で二人なのと

もう誰も来ません、邪魔は入りません、
という状態で二人なのとは

全然違う。

危うく、妄想に走りそうになったが、
今日のノルマが僕を現実に戻してくれた。

それに、残業が長引いてしまうとコオさんに申し訳ない。

きっとコオさんは僕が終わるまで待っているのだろう。

実は優しいコオさんは、
新入社員の僕を一人で放置、
なんてしないはずだ。

そう思っていると

「灰田君、私、ちょっと部長と
 打ち合わせしてくるから、
 何かあったらPHSにかけて」

と言ってコオさんは総務部へ行ってしまった。

僕は三課に一人きりになった。

コオさんに放置された・・・

それに、なんかオフィスにひとりでいるって怖いな・・・

びびりの僕は少し寒気がした。

急いで終わらせて帰ろう。

僕は自分のために仕事をがんばることにした。

自分で決めたノルマだが、
現実は厳しかった。

ペースを上げると精度が落ちる気がして、
なかなか思うようにペースを上げられない。

1時間経ってまだ半分も終わっていなかった。

相変わらず一人ぼっちだし、
おなかも減ってきた。

なんだか心細くなっていると、
コオさんが戻ってきた。

「灰田君、差し入れだよ~」

と笑顔でコンビニの袋を僕に渡した。

「ありがとうございます・・・!」

僕は嬉しくて泣きそうになったが、
完全に引かれるのでぐっとこらえた。

コオさんは笑顔で

「うん」と答えた。

僕はその笑顔とおにぎりで元気を出し、
再び仕事に取り掛かった。

コオさんは

「じゃ、またちょっと打ち合わせしてくるね」

と出て行ってしまって寂しかったが、

コオさんの差し入れをムダにしたくない、と思い
仕事のペースを上げた。

その甲斐があって、
何とか今日のノルマを達成できた。

コオさんはまだ戻っていないので、
PHSに内線をかける。

・・・出ない。どうしよう・・・

部長と打ち合わせと言っていたので、
僕は総務部へ行ってみた。

総務部のドアは開いていた。

近づくと笑い声が聞こえる。

コオさんと部長の声だ。

打ち合わせって言ってたよなあ・・・

何だか心がもやもやした。

ドアから覗いてみると、部長はデスクに座り、
その横にコオさんが立って何か話していた。

二人とも笑顔だった。

あれが打ち合わせなのかな?
すごく楽しそうに話している・・・

僕は胸がぎゅうっとしめつけられ、
息が出来ないような気がした。

「あれ、灰田君。どうした?」

とコオさんが僕に気がついた。

「あ、はい。終わったので・・・」

僕は何だか言葉につまってしまう。

「そうなんだ!
 すごい、2時間で終わるなんて!」

とコオさんは言って
満面の笑みで喜んでくれたが、
部長もその姿を見て微笑んでいるのが見えて、
僕の心は沈んだままだった。
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