僕と三課と冷徹な天使

間に合わない

僕は午後もバリバリと仕事をした。

締切は週末だ。

コオさんは
「できれば、でいいから」と言っていたが、
本心ではないはず。

本当は締切までにあげてほしいに違いない。

そうじゃないなら言わないと思う。

いつもコオさんは、
不要なことは言わないから。

僕を気遣って
「できれば」と言ってくれたのだろう。

その気持ちに応えたい。

そう思いすぎて、
また僕はコオさんに注意されてしまった。

「灰田君。午後休憩した?」

僕を見ながら、
コオさんは目を細めて言う。

「あ、はい。
 じゃ、あと少しで休憩します」

なんだか可愛い怖い顔だったので、
僕は笑いながら答えた。

「ちゃんと休憩してね~」

コオさんは同じ顔で言って仕事に戻った。

切りが良いところまでやろうと
仕事に戻った僕は、いつの間にか
休憩を忘れてしまっていた。

「灰田君、休憩~!」

ともう一度コオさんに言われたときには、
30分も経っていた。

うわっと思ってコオさんの顔を見たら
さらに目が細なって、
ほとんどつぶっていた。

やっぱり可愛い怖い顔だったので、
安心しながら

「すみません、行ってきます」と

そそくさと僕は立ち上がった。

休憩しながら時計を見ていると、
終業まであと一時間だった。

仕事を引き継いでから一日経ったことになる。

どれくらい進んだか確認しよう。

僕は全然冷めていないコーヒーを急いで飲み干して、
三課に戻った。


デスクで書類を確認してみると、
30ページあるうちの
5ページしか終わっていない。

週末まであと3日。

このままでは間に合わない。

ペースを上げるか、残業しないと・・・

書類を見て暗い顔をしている僕に、
コオさんが気づいたようで

「灰田君、どうした?」

と言った。

僕は正直に

「このままのペースでは週末に間に合いません。
 一日のノルマを決めて、
 終わるまで残業させてください」

僕は思わず頭を下げた。

コオさんは冷静に

「どこまで終わってる?データも見せて」

と聞いた。

言われたとおりに書類と、
ピックアップしたデータを見せた。

ダメ出しが怖くてドキドキした。

確認し終わったコオさんは

「残業していいよ。
 課長には私から言っておくから。
 一日のノルマは自分で決めて、
 あとで私に教えて」

と笑顔で言って、課長のデスクに向かった。

「はい!」

僕は嬉しくなって元気な返事をしてしまった。

計画を立てて、そのとおりに進められれば
間に合うかもしれない。

まだ、あきらめたくない、

その気持ちにコオさんも応えてくれたようで嬉しかった。
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