僕と三課と冷徹な天使

コオの反応

進捗確認シートに
八木さんの状況をまとめた僕は
次はあっこさん、と思って声をかけた。

「あっこさん、進捗確認いいですか?」

「・・・あ、それ自分で書くからいいよ」

え、意外。

そして、大丈夫なんだろうか。

いや、でもそんな顔をしてはいけない。

「あ、はい。じゃあよろしくお願いします」

ここは素直に引き下がったほうがいいな。

じゃあ次は吉田さんか・・・
と思っていると

「あー、つかれたー。」

と言ってコオさんが三課に戻ってきた。

「お疲れ様です!」

すかさず声をかける僕。

忠犬・灰田、と自分で思う。

「もう終わったんですか?」

「いや、10分休憩。このあとが長そう」

うんざりした顔で
デスクに倒れこんでいるコオさん。

大変だなあと思いつつ、

「チョコ食べます?」

とご機嫌を伺う。

「ううん、いいや。
 会議中思いっきり食べてやったから」

ふてぶてしくチョコを食べながら
会議に参加するコオさんの姿が
目に浮かんだ。

参加されるほうも大変だなあ・・・

「どう?進捗確認は」

コオさんから聞いてくれたので、
うれしくて張り切って答えた。

「はい。八木さんの進捗確認は書き終わって
 共有フォルダに入れました。
 進捗としては、あと業者さんに
 電話するだけだということだったので、
 僕が電話しました」

もしかしたら褒めてもらえるかな、
なんて思っていた。

しかし、現実は厳しかった。

コオさんはゆっくり起き上がって

「それは八木の仕事だよね。
 私は灰田に進捗確認をしろと言った。
 手伝えとは言ってない」

とまっすぐに僕を見て、
厳しい顔で言った。

「私に相談せずに勝手なことをしないで。
 言われたことだけやってて」

と言って立ち上がり、
座っていた椅子を
バンッとしまって出て行った。

・・・やってしまった。

僕の目の前は真っ暗だった。

こんなに怒られるのは久しぶりだなあ・・・

前に怒られたのはいつだっけ・・・と
現実逃避で過去を思い出しながら
自分のパソコンに体を向けた。

すると、八木さんの心配そうな顔が見えた。

「灰田君、ごめんね・・・」

あんな申し訳なさそうな八木さんを
見たことがない。

僕はハッとして
自分のことはどうでもよくなってしまった。

「いや、大丈夫です。
 ちゃんと確認しない僕が悪いんです」

慌てて八木さんをフォローする。

「でも怒りすぎだよね~
 別に失敗したわけじゃないのに」

あっこさんが口を挟んできた。

「会議で機嫌悪かったんだろうね」

寝ていたかと思ったじゅんさんが
嬉しそうに言う。

きっと久しぶりに
コオさんが本気で怒ったから
ドMの血が騒ぐのだろう・・・

「でもな。八木が電話するべきだろ。
 コオは八木が動くのを
 待っていたんだと思うぞ。
 同期としてな」

吉田さんが珍しくまともなことを言う。

・・・そうかあ。

コオさんと八木さんは同期だから
手取り足取り教える、というわけには
いかないんだろう。

だから八木さんを
動かそうとするのではなく
動くのを待っていたのかもしれない。

僕は余計なことをしてしまったなあ・・・

「でもそんなこと
 言わないとわからないことよね。
 コオさんは言葉が足りないのよ」

あっこさんも今日は真面目なことを言う。

確かに・・・。

僕は役に立ちたいだけだった。

仕事が進めばコオさんが喜ぶとしか思っていなかった。

この鈍感な僕が
コオさんの八木さんへの思いまで
察することは到底無理だ。

仕方ないよなあ・・・

何だか僕は、みんなの話を聞いていたら
怒られたショックから立ち直っていた。

僕は三課に配属されて良かったんだと思う。

「・・・灰田君、申し訳ない。
 次からちゃんと自分で電話するよ・・・」

八木さんはまだ暗くなっている。

「あ、本当に大丈夫です。
 僕のほうこそすみません。
 余計なことしちゃって・・・」

僕はそう言いながら
コオさんの
『言われたことだけやってろ』という
言葉を思い出して、
ちょっとまた気持ちが沈む。

「いや、余計なことじゃない。
 灰田君が電話して怒られてなかったら
 僕はいつまでも電話できなかった。」

八木さんは真剣な眼差しで言った。

「実は、もう一件
 電話をしないといけない相手がいる。
 そこにこれから電話するよ」

と引き出しから名刺を取り出して
電話をかけ始めた。

「良かったね。灰田君」

と小声でじゅんさんが声をかけてくれた。

「はい」

本当に良かった。

余計なことをしたけど、
後悔をするのはやめよう。

でも次からはコオさんに
ちゃんと相談してからにしよう・・・

もうあんなに怒られるのはいやだ・・・
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