僕と三課と冷徹な天使

訪問

意を決してドアを開けると
コオさんが笑って立っていた。

あー・・・私服がかわいい・・・

普通の女の子だ・・・

「灰田、大丈夫?
 二日酔いでしょ・・・
 これ鍵。はい。」

と言って、見覚えのある鍵を僕に渡す。

本当に部屋に入ったんだなあ・・・

「じゃ、また月曜日ね」

と言って帰ろうとするコオさんを
僕はひきとめた。

「あ、コオさん、ちょっとお茶でも・・・」

「いいの?じゃ、おじゃましまーす」

思ったよりも簡単に引きとめられた。

さすが昨日来ただけあって
コオさんは迷いなく居間に入る。

奥のクッションに座りながら

「やっぱり綺麗だわ・・・」

とつぶやいた。

「灰田、掃除好き?」

お茶を用意する僕にコオさんが声をかける。

「あ・・・はい。汚いよりはいいんで」

と言って
急須と湯飲みを持ってテーブルへ行き
お茶を煎れる。

「急須でお茶を煎れる男子、はじめてみた・・・」

コオさんが急須を凝視して言う。

「そうですか?買うと高いじゃないですか」

「・・・灰田は長男?」

「いえ、次男です。でも兄とは年が離れていて
 親も共働きなんで、自分のことは自分で・・・」

と言いながら
こんな話面白いのかな、コオさん、
と思った。

でもどうしたらいいのかわからないから
話を続けた。

「コオさんは兄弟いるんですか?」

「うん、二番目。だけど部屋汚いよ。
 うちも掃除してほしい」

お茶を飲みながらコオさんはつぶやく。

本気にしていいのかわからず、
何も言えない。

「昨日言ったけど覚えてないかな?
 うち、ここから歩いて20分くらいなんだよ」

「え、そうなんですか?」

コオさんと近所なんて・・・

うれしくてニヤけそうになる僕。

が、すぐにはっとする。

「僕、自分の住所言えましたか?」

「ううん、全然。しかたないから
 会社にいた人に調べてもらった」

聞かなきゃよかった・・・

完全に自分にひいた。

「あの、僕タクシー代とチップ払います」

「いいよ。お金ないでしょ」

「いやでも、申し訳なさすぎて・・・」

「大丈夫だよ。誰にでもあることだよ」

「はあ・・・」

確かに
誰にでもお酒での失敗はあるかもしれない。

でもコオさんにこんなに迷惑をかけるなんて。

消えてしまいたい気分だった。

落ち込みが半端ない僕に
コオさんが気づいたのか

「んーじゃあ、なんか食べたい。
 お腹すいたんだけど」

と救いの手をさしのべてくれた。

「あ、はい。何か食べに行きましょうか」

「うん。でも二日酔いで辛いでしょ。
 何か取ろうよ。チャーハン食べたい」

「・・・チャーハンなら僕が作りましょうか。
 この前チャーシュー作ったばかりなんで」

「チャーシューを作る・・・?」

コオさんは、ぶふっとふきだした。

「灰田って本当におもしろい。
 ほんと、すごい!」

なんでウケているのかわからないが、
とりあえず僕も愛想笑いをしておいた。
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