僕と三課と冷徹な天使

満月

その日のコオさんは
少ししかビールを飲まず、
ちょっと残念に思う僕がいた。

コオさんは満足そうに

「お腹いっぱい~
 ・・・さて、もう少し片付けますか」

と言って、洋服の山に向かった。

それであまり飲まなかったんだ。

もしかしたら
疲れたから、もう二度と片付けしないなんて
言うんじゃないかと心配していたので
僕は安心した。

食器を洗って、僕も掃除の続きをした。

外は暗いのに、コオさんと二人で
黙々と片付けをするのは
変な感じがした。

妄想に走りそうになる頭を
山積みになっているゴミ袋の山が
止めてくれた。

「灰田~服終わった~」

コオさんが言ってソファにもたれかかった。

「お疲れ様でした。
 今日はこれくらいにしましょうか。」

コオさんがこくんと頷く。

すると急に立ち上がって
カーテンを開け

「ちょっと換気しよう」

と窓を開けた。

「あ、月が綺麗」

と言ってコオさんは空を見る。

僕も窓のそばに行き、夜空を見上げた。

綺麗な満月だった。

月を見ていると、この世界にコオさんと
二人きりになってしまったような
感じがして、せつなくなる。

それは決して嫌ではない
愛しいような気持ちだったが

このまま味わっていると
どうにかなってしまいそうだったので
僕はその場を離れた。

「じゃ、僕、帰ります。
 続きはまた今度やりましょう」

と言って、カバンを持って玄関に向かう。


玄関の前で、じゃ、と言いかけると
コオさんは

「本当にありがとう」

と言って、僕を抱きしめた。


突然近づいたコオさんの体温。

僕の鼻をくすぐるコオさんの髪。

細い腕でぎゅっと締め付けられる僕の肩。

体全体にかかるコオさんの重み。

何が起きたのかわからず、
異空間に放り込まれたようだった。

鼻につくコオさんの香りだけがリアルで
これは現実だと思わせた。


コオさんは僕から離れて

「じゃ、気をつけて帰ってね」

と笑顔で言った。

「はい」

と言って出ていくことしか
僕にはできなかった。
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