僕と三課と冷徹な天使

ネクタイ

何とか三課に戻った僕は
仕事を始めたが、使い物にならなかった。

隣にコオさんがいる。

キーボードを打つ手が動かない。

考えたくなくても
頭が勝手にしゃべり始める。

見たくないのに、目の隅で
コオさんを追ってしまう。

僕は休憩フロアに逃げ込んだ。


・・・コオさん何で言ってくれなかったんだろう。

黙って秘書課に行っちゃうのかな。

僕に仕事を全部引継いで・・・

僕はただの便利な後輩なんだろうか。

休憩フロアで、考えたくないことを
絶え間なく考え続けてしまう。

はあ・・・。

俺は何のために
仕事をがんばっていたんだろう。

結局コオさんと離れることになるなんて。

むなしさが心を覆う。

『言いたいことはできるだけ言って』

いつかコオさんが
僕に言ったことを思い出す。

・・・言えないです。

事実を知るのが怖いです・・・

さらっと
コオさん、秘書課に行くって本当ですか?
なんで言ってくれないんですかー
って言えたらいいけど。

言えるわけがない・・・

あーあ。

どうしたらいいかわからない。

仕事をして気を紛らわせたほうが
まだいいか・・・

どうせ仕事もたまっているんだし。

結局僕は、三課に戻ることにした。


三課に戻る途中、
営業部とつながっている廊下で
見覚えのあるメガネの男と
長い髪の女の人が見えた。

ぼーっと通り過ぎようとしたが
すぐに、はっとした。

コオさんと森本だ。

なんで?

何となく嫌な予感がして
僕の頭はフル回転した。

鋭いコオさんは僕の様子が
おかしいことに気づいて
森本に屋上での様子を
聞きに行ったのだろう。

そこで秘書課の話を
森本が僕に言ったと知った
コオさんは・・・

森本に何をするかわからない。

僕は慌てて駆け寄った。

怯えた顔の森本と鋭い眼光のコオさん。

コオさんの手は森本の首元にある。

「コオさん!やめてください!!」

僕はコオさんの腕をつかんで
森本から離す。

驚くふたり。

「灰田・・・どうしたの?
 ネクタイなおしてあげただけだけど。」

としれっと言うコオさん。

「ねえ?森本君」

不敵な笑みを浮かべて
ちらりと森本を見る。

「・・・はい!全然大丈夫です・・・!」

不自然な森本の返答。

しかもちょっと涙目。

「いつも灰田と仲良くしてくれて
 ありがとうって言ってたんだよー。
 ねえ?」

と言ってコオさんは、森本を
下から見下したような目で見る。

薄ら笑いでうなづく森本。

「じゃ、またね。森本君。
 これからも灰田をくれぐれもよろしくね。
 ・・・灰田、行こう」

と言って、コオさんは森本のあごを撫でて
氷のような視線を送り、歩き出した。

顔面蒼白の森本に
僕は目で謝りながら
コオさんのあとをついていった。
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