僕と三課と冷徹な天使

その後

朝、ホームの一番後ろで
僕たちは待ち合わせをしている。

好きな子と一緒に登校することが
夢だった僕が
勇気を出して言ってみた。

コオさんは
一緒に会社に行くなんてめんどくさい、
と言うんじゃないかと思っていたが
すんなりOKしてくれた。

「おはよう~。待った?」

と言ってコオさんが
小走りにやってくる。

夢のようだ・・・

ニヤつきを隠せない僕。

「こういうの憧れたてたんでしょ。
 まんがとかでよくある
 シチュエーションだもんね」

コオさんがさらっと言う。

ば、ばれてる・・・

うなだれそうになる頭を必死で止める。

「照れてる?
 ・・・灰田、かわいい」

コオさんはそう言って
腕を取って、手をつないだ。

もうなんでもいいや、幸せだから・・・

またニヤつきはじめる僕だった。


会社に着くと

「ランチ、一緒に行けそうだったら連絡するね。」

と言ってコオさんは秘書課へ向かう。

いつまでも見送っていたいが
仕方なく僕も三課へ行く。

すでに松井課長が三課にいて
朝の掃除を手伝ってくれる。

あっこさんとじゅんさんにもお願いしてみたが
やっぱり無理だったようだ。

「課長に掃除まで手伝わせてしまって
 すみません」

と僕が言うと

「どうせこの時間には出社しているので、
 大丈夫です」

と松井課長は言ってくれた。

でもやっぱり申し訳ない
と思っていると
コオさんがやってきた。

「どうしたんですか?」

すぐにまた会えて
ちょっと嬉しい僕。

「秘書課で昼寝するなって翠さんに言われたから
 今日からここで寝る。
 松井課長、昼休みはここ空けといてくださいね」

と言って、松井課長が使っている
デスクの引き出しにクッションを
無理やりしまうコオさん。

「昼寝する暇があればいいですね」

とめずらしくいじわるな顔で
松井課長が言う。

「無理やり作ります」

とコオさんが挑発に乗る。

ちょっと焦る僕。

「じゃーね、灰田。
 この人にいじめられたら、
 ちゃんと部長にちくるんだよ」

と恐ろしいことを言って
コオさんは出ていった。

松井課長の機嫌を一応伺うと
まったく気にしていない様子だ。

なんだかんだ言って
コオさんを気遣ってくれる松井課長は
昼休み、コオさんの場所を
空けておいてくれるだろう。

単純な僕は、
コオさんに優しい松井課長のためにも
仕事をがんばろう、と思うのだった。


コオさんは昼休み以外の休憩も三課に来た。

「おまえ、本当にちょくちょく来るなあ」

吉田さんが呆れていう。

「そろそろ翠さんが
 迎えに来るんじゃないですか」

あっこさんはもう慣れたようだ。

「あの人いいですよねー」

じゅんさんがうっとりと言う。

「ああ、ドSっぽいよな」

吉田さんがはっきり言う。

すると、電話が鳴った。

あ!と言って、じゅんさんが
すばやく電話に出る。

翠さんから内線で
コオさんに秘書課に戻るように
という内容だったようだ。

「ちえー。
 じゃ、またくるね」

と言ってコオさんは秘書課に戻って行った。

「あんまりコオがいなくなった感じ、しないな」

吉田さんがつぶやく。

「松井課長が来なければ変わらないですよね」

じゅんさんが答える。

「ああ、あの課長がいると
 昼寝しづらいんだよなー」

吉田さんがむっつりした顔で言う。

「吉田さんが松井課長の分の
 仕事をしてくれれば、来なくなりますよ」

ここぞとばかりに言ってみる僕。

「そうか!ちょっとがんばるわ」

相変わらずおだてに乗ってくれるから助かる。

怒る人がいなくなって
無法地帯になるかと思った三課だが
みんな意外と仕事をしてくれていた。

僕がいっぱいいっぱいになっていると
あっこさんが声をかけてくれたり、
じゅんさんが居眠りしている
吉田さんを起こしてくれたり、
みんな気遣ってくれる。

僕は約束どおり、
コオさんの大好きな三課を
守れているのだろうか。

わからないけれど、
僕は僕のできることをやるだけだ。

大好きなコオさんの前で胸を張れるように。
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