砂糖漬け紳士の食べ方

食欲はまあまあある、という本人の申し立てなので、レトルトのお粥のほかにも、一応桃缶も開けてみた。

お見舞いどころか、看病まっしぐらである。



「はい、出来ましたよ。どうぞ」


寝室へお椀を乗せた盆を運ぶと、伊達がのろのろと半身をベッドから起こしてきた。

顔は熱のせいで赤らんでいる。髪も、やっぱりぐちゃぐちゃ汚いままだ。



アキは、伊達にお粥を入れたお椀とレンゲを手渡した。

一瞬だけ触れた彼の手も、驚くほど熱を帯びている。



「ありがとう…助かるよ」


伊達はかすれた声でそう言い、レンゲで掬った卵粥を口に入れた。

そしてしばらく租借し、あっけない一言。


「味が無い…」

「鼻が詰まってるからじゃないですか」アキは適当に答えた。


文句をつけている割に、彼の手は進む。

この反応を見れば、制作を頼んでからの期間しっかりした食事はしていなかったのは明白だ。



「伊達さん、ちゃんとご飯食べてましたか?」

「…そこそこ」

「どーせシャワー浴びて、そのあと濡れた髪なんて乾かさずに制作してたんじゃないんですか」


返事はなく、彼はまた一口レンゲを口に入れる。図星のようだ。



「絵を頼んだのは確かに私ですけど…ちゃんと食べるもの食べて下さいよ」

いい大人なんだから、というアキの文句に、伊達が唇を嫌そうに突き出した。



「私に言われたくなかったら、ちゃんとして下さい」

「……はいはい」


伊達はあっけなくお椀を空にした。

とくれば、次は薬だ。



「伊達さん。食べ終わったら、貰ってきた薬を飲まないと」


先ほど夜間病院で貰ってきた薬は、いつのまにかベッドの隅に寄せられていた。

アキは再びそれをひっ掴む。

どうせ薬を飲まない気であったのだろう。



デザートの黄桃をちまちまと齧る伊達が、目の前に突き出されたコップを見るなり顔をしかめる。



「これ以上文句を言うなら、口の中に薬突っ込みますよ」


彼女の凄みに、伊達はしぶしぶと粉薬を口に入れ、しぶしぶスポーツドリンクで流し込んだ。とても嫌そうに。

やたら屁理屈をこねる子供の面倒を看ているに近い。



飲むが早く、伊達はそのままベッドへと再びもぐりこんでいった。

大きな掛け布団はまさしく装甲の代わりだ。




「もう一回熱計りますか?」

「…面倒だからいい」



ぶっきらぼうな返答に、アキは肩でため息を落とした。本当に大きな子供と一緒だ。


お盆を片づけつつ、ふと彼女は、自分が買ってきた見舞いの品に冷却シートがあったのを思い出した。



我ながら何て良いチョイスをしたんだろう!

熱があるなら、ぜひ使っておかないと。



キッチンに戻るなり、早々にお盆を置き、アキは再び寝室へ舞い戻る。


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