おてんば卑弥呼
1 解かれた封印と目覚めた能力

解かれた封印

「行ってきまーす!!」

 寒い冬が終わり、温かい春を迎えた4月。佐賀県に住む女子高生・大和姫実(ひみ)は新学期が始まり、高校3年生となった。

「…っと!!いかんいかん!!忘るぅとこやった!!」

 姫実は自転車に乗る前に、家の表に生えている楠の木に向かった。
実家は神社である姫実は、学校に行く前に必ず境内に生えている楠の木に手を合わせて挨拶をするのが習慣なのだ。勿論、学校が無い時も毎朝必ず挨拶している。

「おはようございます!今日から高校3年生…高校生活最後の1年となります。将来の夢である、ラジオパーソナリティになるべく!!1年間頑張りますので、見守ってください!!行ってきます!!」

合わせていた手を解き、楠の木を見上げた。

「トヨおばあちゃん、学校行って来っけん!!」

 今は亡き、大好きな祖母へ言葉を掛け、姫実は自転車に乗って学校へ向かった。

「は~…春やなあ…桜がキレイかにゃ~…」

 通学路に咲く桜を見ながら、姫実は独り言を呟いた。
こういう風景を見ることが出来るときは、少し遠い学校に進学して良かったと思う。
自転車で通る佐賀県庁付近は、春になると桜が美しく咲く。
その桜を見て、楽しみながら走る桜マラソンというイベントがあるくらいである。
ピンクの雲の中を走っているみたいで好きだったが、その雲の中を走る春は今年でおしまいかと思うと
姫実は少し切なくなった。

「姫実~!おはよ~!」
「ゆうちゃん!おはよ~!」

教室に入ると、姫実の親友である優香が出迎えた。高校で知り合った二人は、何かとウマが合い、いつも一緒に行動した。

「ゆうちゃ~ん!今日から3年ばい!」
「うんさ!テストばっかの1年よ!」
「けど、それを乗り切ったら…校則もない女子大生♪」
「髪も染めれるし、メイクも出来る♡」
「がんばろっ♪」
「特進クラス、最後の1年!頑張るばい!」
「こういうとき、特進で良かった~!クラス替え無かけんが…」
「姫実とまた過ごせるも~ん♪」
「アタシも~!ゆうちゃんと一緒で良かった~♪」
「あ、先生来た!」

またあとでね、と言って互いの席に着いた。

「みんな、おはよう。今日からいよいよ3年生だ。皆の夢に向かって大きく動いていく一歩の1年になるし、
この緋樫(ひがし)高校で過ごす最後の1年だ。悔いのない毎日を過ごすように!」

 担任の先生の挨拶、朝の会のあとに、体育館に始業式の為向かった。
ふと、姫実は窓の外を見た。さっきまで晴れていたのに、いつの間にか空が暗くなっていた。
天気予報は1日晴れのはずだったのに…。そう思いながら、優香と体育館へと足を運んだ。
その天気が、自分の運命を帰る天気になるとは知る由もなく…。
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