切片詩集 限界セグメント
優しい牙




手枷が欲しいって言うから
ハメてあげたのは随分昔のこと
そのキミが僕の内側で
唐突に破壊を求めた
さあ、いいよ、って言った、さっき
嬉しそうに笑ったのか
もうそんな感情も消し飛んで
裂けてしまうほど大きく
口を開いただけなのか
僕のためにずっと長い間
何もかもガマンしてくれたキミ
口輪が唇に同化するほど
でももう必要ない
殺したいなら殺したらいい
キミに殺られるのもいい
まるで獣のように叫んで暴れているキミが
こんなに愛しい
差し出した指を食いちぎる歯
黒い拘束衣が引き千切られて
キミの白い肌を見た

一瞬でもっと好きになれる
もっと愛していたい
もっとキミを見ていたい
紅い眼でその牙で僕を内側から食い破って
まるで蝶が卵の殻を食べるみたいに
僕が最初の餌になってあげる

好きだ、キミが好きなんだ
どうか僕をその視界に入れてくれ
抱きしめた腕にその牙を沈めてくれ
僕の中の優しい僕








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