この恋、永遠に。
 退院した日は疲れただろうということで、彼がケータリングサービスを頼んでくれた。車椅子での生活は、こんなに至れり尽くせりの部屋でも中々慣れるのは大変だ。どんなに私が生活し易いように工夫をしてあっても、やはり一人で出来ないことも多いからだ。

 その一つが入浴だ。私は柊二さんの介助がないと入浴が出来ない。彼は役得だ、と笑ったけれど、私は申し訳ない気持ちで一杯になる。それに、今はまだ始まったばかりだからいい。けれど結婚して生活していくとなると、これが一生続くのだ。私は柊二さんに一生世話をさせることになる。柊二さんはそれが分かっているのだろうか……。不安だ。
 彼はとても忙しい。大きな会社を背負っているのだ。並大抵の忙しさではない。そんな彼にこれ以上負担をかけ続けることに、私も、彼も、この先果たして耐えていけるのだろうか……。

 柊二さんに手伝ってもらって入浴を終えた私は、ドレッサーに向かい髪を乾かしていた。彼はまだバスルームだ。私が退院してからは、いつもこうして私の体を綺麗にした後、柊二さんは自分の体を洗う。彼が体を洗っている間に私は自分の髪を乾かすのだ。

 窓から見える夜景は、プロポーズされた日と同じで眩く煌いている。見える景色は同じなのに、見る者の感情によって、見え方が全然違ってくる。
 あの日はとても眩しくてキラキラと輝いて見えたのに、今は切なくて溶けて消えてしまいそうだ。瞳に浮かぶ涙がそれを助長させる。
 柊二さんがバスルームから出てくる気配がした。私は慌てて浮かんだ涙を拭う。彼の前では笑顔でいたいから。

「貸してごらん」

 バスルームから出てきた柊二さんが、私の髪に当てていたドライヤーを手に取った。彼はまだ自分の髪が濡れているのも構わず、私の髪にドライヤーを当て、指を私の髪に滑らす。

「美緒の髪は本当に綺麗だ」

 乾かしながら私の髪にそっとキスを落としてくれた。
 私はそれを鏡越しに見ながら、鏡の中の彼に微笑む。彼も微笑み返してくれた。

「はい、乾いたよ」

 髪を乾かし終わった柊二さんはドライヤーを置くと私を抱き上げた。まだ、彼の髪を乾かしていないのに。

「柊二さんの髪がまだですよ」

「んー………」

 私がそう言っても彼は曖昧な返事をするだけで、そのまま私をベッドに降ろす。自分もベッドに腰を下ろした。

「先に美緒を愛したくなったんだ」

「…柊二さん」

「嫌?」

 瞳に甘い欲望を滲ませ、彼が私を見下ろす。嫌なわけがない。私だって柊二さんに触れたいし、触れて欲しい。彼の温もりを感じたい。
 私は嫌じゃないと言う代わりに小さく首を左右に振った。
 すぐに柊二さんの顔が降りてくる。私はそっと開いた唇で彼の唇を受け止めた。

 こうして抱き合っている間は、本当に幸せなのに。どうしてこんなにも苦しいのだろう。こんな気持ちを抱いたまま、これからの長い人生を二人で歩いて行けるのだろうか。
 私は張り裂けそうな痛みを我慢して、一つの決心をした。


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