この恋、永遠に。
「だから気にする必要はない。俺しかいないんだ」

 優しく目尻を下げた本宮さんに私は緊張を解く。
 頷いて微笑む私に、彼は満足そうに笑った。

「それでも美緒が気になるんだったら、今度ゆっくり教えてあげるから。だから今日は何も気にせず、ただ楽しめばいい」

「はい。そうします」

 私は綿菓子のようにふわふわと溶けそうな幸せな気分を味わいながら、運ばれてくる美味しい料理と素敵な夜景、そして目の前で笑ってくれる彼との時間を楽しんだ。


 デザートまで全てを堪能した私たちがお店を出たのは二十一時近くだった。
 今日は本宮さんの運転で来ていたためアルコールを飲んでいなかった私たちは、車を停めてある地下駐車場へと向かった。

 私の背に腕を回し支えるようにエスコートしてくれる彼からは、やはり幼い頃から英才教育を受けてきたのであろう、洗練された気品が漂う。
 私がこんなことにも、いちいちドキドキと胸を高鳴らせていることなど、知る由もないのだろう。
 ふかふかの絨毯が敷かれた高級感漂うエレベーターホールに来たとき、背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「萌、大丈夫?」

「う……ん」

 何度となく聞いたことのあるその声に私が振り向く。間違いなくそこにいたのは、私がよく知る二人、萌ちゃんと晃くんだった。
 萌ちゃんの体を支える晃くんと目が合う。

「あ……」

 最初に声をあげたのは晃くんだった。

「美緒先輩…」

「晃くん、萌ちゃん……」

 意外な場所でばったり出くわした偶然に私が驚いて目を見張る。
 この二人もこのビルのどこかで食事していたのだろうか。萌ちゃんの様子から推測すると、どこかで飲んでいたのかもしれない。
 彼女は割といつもこんな感じなのだ。お酒が大好きでよく飲むくせにそんなに強くないものだから、すぐに酔っ払ってしまう。だから介抱するのは必然的に晃くんになる。
 今日もきっとそんなところだろう。トロンとした目で晃くんにもたれかかった萌ちゃんは、半分寝ているような状態だ。

 私が目を丸くしたまま交互に二人を見ていると、晃くんの視線はすぐに私の斜め上へと移った。不機嫌そうに睨み付けている、と言った方が正しいだろうか。

「美緒先輩……」

 晃くんの唸るような低い声に、私はバーで本宮さんに会ったときの事を思い出していた。
 そうだった。あの時私はまるで攫われるように晃くんたちから連れ去られたのだ。あれから二人に会う機会もなく何も話していない。
 正直に白状してしまえば、本宮さんのことで頭が一杯で、他のことに気が回らなかったのだ。
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