この恋、永遠に。
 お礼を言うと「ほら、もう眠って」と優しく促された。
 こんなに甘やかされていいのだろうか。
 それでも気分の悪さに勝てず、私は顔を隠すように布団の中に潜り込む。彼の匂いがする。爽やかで清潔な香りだ。
 間もなく眠りに落ちた私は、彼がいつ部屋を出ていったのか分からなかった。



 次に目を覚ましたのはお昼近くだった。先ほど飲んだ薬が効いているのか、朝起きたときに感じた不快感はない。
 結局、本宮さんは私を起こしにこなかったようだ。
 ベッドから抜け出した私は、二つあるドアのうち、朝、彼が部屋に入ってきた方向のドアを開けた。

 そこはどうやらリビングだ。
 寝室も広いと思ったが、こちらはそれ以上だ。四十畳はあるかもしれない。ダークブラウンとオフホワイトで統一された室内は、センスよく家具が配置されているが、やはり寝室同様、生活観がないように感じた。まるでモデルルームのような、無機質な感じである。

 広い室内を見渡すが、そこに本宮さんの姿はなかった。後で起こしにくると言っていたくらいだからどこかにいるんだろうけれど。
 とりあえずメイクを直して家に帰りたかった私は、本宮さんを探した。お礼を言って、私のバッグがどこにあるか聞かなければならない。

 リビングを抜け、廊下に出る。手前のドアが僅かに開いていた。そっと中を覗き込むと、そこに彼はいた。
 パソコンに向かい、難しい顔でキーを叩いている。そして彼は眼鏡をかけていた。眼鏡をかけた本宮さんは初めて見る。会社でたまに見かけたときも、彼が眼鏡をかけていたことはなかった。

 眉間に皺を寄せて、真剣な表情で画面を睨んでいる彼は近づき難い雰囲気を纏っていたが、私は呼吸をするのも忘れるほどに見入ってしまった。
 最近の私は少しおかしいのかもしれない。彼を見つめるたびに、鼓動が早鐘を打ち、息苦しくなる。
 以前の私なら、会社で遠くから彼を見ても、素敵な人だと思うくらいでこんな気持ちにはならなかったのに。
 どれぐらいそうしていたのだろう。声を掛けることができず、ただ黙って彼の姿を見つめていた私は、彼がパソコンの画面から顔を上げた瞬間、思わぬ彼の笑顔を見た。私の鼓動が跳ねる。

「なんだ、起きたのか」

 つい先ほどまで刻まれていた眉間の皺はなりを潜め、白い歯を見せて笑う彼には先ほどのような近づき難い雰囲気は一切ない。人当たりのいい好青年といった感じだ。
 彼がほんの少し笑うだけで、私の頬は熱を帯びる。きっと赤くなっているのだろうけど、どうすることも出来ない。

「はい、あの、ありがとうございます……。それで、そろそろお暇しようと思うんですが、バッグが見当たらなくて」

 本宮さんが椅子から立ち上がりこちらに歩いてくる。腕時計で時間を確認した彼は私の背を押すと一緒に部屋を出た。

「バッグはリビングにある。それよりもうお昼だ。何か食べに行こう」

 そしてちらりと私を見下ろしてから、廊下の奥にある部屋を指差した。

「その前に、シャワーを浴びてくるといい。大丈夫、着替えは用意してあるから」

「え?あの…?」

「昨晩のことを説明しないとね」

 彼がニヤリと口角を上げる。私は急に不安に駆られた。
 覚えていない事がこんなにも恐ろしいなんて。私は一体何をやらかしてしまったのだろう…。

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