この恋、永遠に。
 俺は目の前で黙ってタバコを吸う女を見据えた。長い髪は綺麗に整えられ艶がある。メイクも多少派手だが手を抜かないところは完璧主義のこの人らしい。背は百七十五センチはある。スカートから覗くスラリとした脚は綺麗な曲線を描き、これが俺の兄だとは誰も気づかないだろう。
 そう、目の前にいるこの妖艶な女性は、紛れもなく俺の二つ上の兄、本宮玲二である。

「それはどうかしら………あら?」

 玲二が俺の左手に視線を移した。絆創膏が貼られた俺の手だ。
 さすがに客先へ出向くのに美緒からもらった絆創膏ではまずいと思った俺は、会社で新しいものに取り替えていた。だが玲二が言いたいのはそんなことではないらしい。

「私以外にも柊二にじゃれる子猫ちゃんがいるのね」

「あ?」

「その左手。私がいたずらした傷以外にも新しそうな傷があるじゃない」

 玲二がニヤニヤと見つめるそこへ俺も視線を移した。玲二が言っているのは昨夜、美緒が付けた傷のことだろう。お前が付けた傷と一緒にされてたまるか。

「これはいいんだ」

 俺は何でもない振りをして話を終わらせようとした。が、玲二の興味はそがれなかったらしい。何か意外なものでも見たような顔つきで俺を面白そうに眺めている。
 玲二の視線に俺はいささか不機嫌になった。眉間に皺を寄せて腕を組む。含みのある視線を投げられるのは気分のいいものじゃない。

「何か言いたいことがあるならはっきり言え」

「ううん、別に。でも、そうね…きっと可愛い子猫ちゃんなのね」

 机の縁にもたれるようにして立っていた玲二が、くすりと笑って俺を楽しげに見下ろす。まったく、我が兄ながら調子が狂う。
 居心地の悪さを覚えた俺は、表面上は冷静さを保ったまま、持ってきた提案書を差し出した。

「…そろそろ仕事の話をしよう」

「ええ、そうね」

 玲二がくすりと笑った。
 根は真面目な玲二だ。書類を受け取ると真剣な表情でパラパラと紙をめくっていく。

 この辺りは飲み屋が多く、夜になるとサラリーマンや学生で賑わう。玲二の店は高級感のある大人向けのバーを考えているが、ただのバーではインパクトに欠ける。だが、認めたくはないが、玲二はこの通り女性より女性らしい、完璧なニューハーフだからそれを売りにすることと、本宮の流通経路を最大限に生かした豊富なワインやチーズ、ハム等の食材を仕入れて高級志向の店をなるべく低価格で提供できるよう内容を盛り込んだ。親父も、玲二のことについては色々考えているに違いない。

 提案書に一通り目を通した玲二が、満足げに振り返った。

「ああ、いいわね。これでいきましょう」

「分かった」

 玲二も元は本宮の跡継ぎとして教育されてきたのだ。そこらのニューハーフより知識は豊富だし、教養もある。その玲二がゴーサインを出したのだから店はきっとうまく行くはずだ。俺にも勝算はあった。
 その後簡単な打ち合わせを済ませてから、俺たちは揃って顔合わせを兼ねた食事に出掛けた。

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