この恋、永遠に。
 ただ、俺の両親はオープンな性格だが、唯一悩んでいることがある。それが俺の兄だ。もともとは兄が本宮商事を継ぐはずだったのだ。それがだめになったのには理由がある。

「沢口、今日はアイツも同席を?」

「ええ、その予定です。その後の食事会にも出席されるようですよ」

「そうか」

「でも専務、仮にもお兄様に向かって“アイツ”呼ばわりはどうかと思いますよ」

「何言ってるんだ。兄なんて呼んだら叱られるぞ」

「ああ、それもそうでしたね」

 くっと喉を鳴らして笑う沢口は、俺とこれから会う予定の兄とのやり取りが楽しいらしい。この案件に関しては特に生き生きと仕事をする沢口の様子に俺は半ばうんざりしながら大きな溜息を漏らした。

 駅裏の雑居ビルの一角、地下一階にそこはある。まだ看板もなく、中も散らかったままのその場所は、これから新規展開する店舗で我社はワインやチーズなどを提供することになっている。インテリアを担当する他社の営業マンが帰った後、長い髪を綺麗に巻いた背の高い女性が俺の方へと優雅に歩いてきた。

「久しぶり、柊二」

「ああ」

「ここは散らかってるから、奥へどうぞ。沢口くんも」

 派手なルージュを引いた綺麗な曲線を描く唇が妖艶に開く。奥にある事務室へと促された。そこは表の部屋ほど散らかってはおらず、書類や郵便物が乱雑に積まれている他は、綺麗に整頓されていた。

「でも、あの社長が了解してくれるとは思わなかったわ」

 細身のメンソールタバコに火をつけ、紫煙をくゆらす目の前の女性が不敵に笑う。

「話を持ちかけてきたのはそっちだろう?」

「ええ。でも、一か八かで持ちかけただけだもの。駄目なら駄目で仕方ないと思ってたわ」

「社長は何も頭ごなしで駄目と言っているんじゃない」

「……そうかしら」

 窓際に積まれていたスツールを二脚持ってきた彼女は、俺と沢口に座るように促した。俺たちは黙ってそこに腰を下ろす。

「これを機に家に帰ったらどうだ」

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