もう一度、あなたと…
冷たい金属の感触が指をかすめていく。根元におさまり、キラリと光を放つ。
台座が自分の方に差し向けられる。微かに震える指で、残った指輪を手にする。彼の左手を持ち上げ、薬指に輪を通し始めた。


ふ…と蘇る記憶。
あの日、太一がくれた指輪。
あの時もこうして彼の手を取ったーーー。





『…いい⁉︎ 後悔しない…⁉︎ 』

確かめるように言うと怒られた。

『しねーよ!さっさとしろよ!』

口の悪さは恥ずかしさを隠す為。それが分かってるから許せた。
四角い爪の乗った指に輪を通す。
太一の指は硬くてゴツゴツしていて、いつもは乾燥しきってる掌が、とても汗ばんでいた……。




(…何、思い出してんのよ。今はこの人に指輪を贈るんでしょ⁉︎ )

目の前にある「たからがひかる」の手を見る。
太一とは違う、細くて形のいい指。爪は少し丸っぽくて、キレイなピンク色をしている。
見るからに優しい手。
太一の時には引っ掛かった第二関節もスルリと抜けて、指輪はすんなりおさまった…。

リングの上に付いてる、小さなダイヤが光を放つ。
太一と指輪を選びに行った時、私が身に付けたいと思った通りの指輪。
現実との確かな違いを感じながら、「たからがひかる」の顔を見上げた。


「誓いの口づけを…」


神父様の声に胸が鳴る。
記憶も混乱していて、どうしてこんな事になってるのかも分からないのに愛を誓って、指輪を交換して、誓いのキスまでなんて……

(…いいの…?ホントにこんな私で…?)

問いかける様に彼を見つめる。
ベールを上げ、はっきりと顔が見える。
不安で泣き出しそうになる私に気づいて、そ…と頬を包まれた。

「大丈夫。どんなエリカも守っていくから…」

囁く言葉に耳を疑う。
信じられない夢だけど…ううん…夢だからこそ……

「お願い…私と歩いて…」

ぎゅっと握り合った手の温もりを信じようと思った。
例えこれが夢でもなんでも、今この瞬間だけは、彼と生きたいと思ったーーー。



重なる唇の感触が太一と違う。
そのキスの重みを知るのは、もっとずっと先…。

今は身も心も幸せに満たされて、全部の記憶がかすんでいった……。


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