もう一度、あなたと…
あの時の身体の熱さと痛みを、今までずっと忘れていた。
いつの間にかそんな事にも慣れ、そして、触れ合うこともなくなったーーー。

ザーザー…という水音に我に返る。
冷たく冷えきった身体が震えてる。
手を伸ばして蛇口を止めようにも、思うように動かない。
ガタガタ震えながら、自分の身を縮めるのが精一杯…。

(ど…どうしよう……身体が動いてくれない…)

部屋にいる「たからがひかる」にSOSを送るには、蛇口の側にある緊急用のボタンか紐に手を伸ばさないといけない。
でも今は、それすらもできない。
ゾクゾクする身体に腕を巻きつけておかないと、寒さで凍え死んでしまいそう…。

(やだ…こんな格好のまま死ぬなんて……!)

大げさに考えてた自分の後ろのドアが開いた。

「冷たっ!」

声の主が入ってきて、大慌てで水を止める。

「エリカ!しっかりしろ!」

冷えきった肩を「たからがひかる」が抱く。その顔を見て、涙が浮かんだ。




……私の夫は…この人じゃない……。
彼は…こんな優しい顔なんかしていない…。


ぶっきら棒で…
無口な人で…
少し…神経質で…

でも…
いつも私の事を気にかけてくれていた……。

ただ、私が…
それに気づけない程子供で…優しさを返せなかっただけで……
だから…
それが積み重なって…

私達は…別れることになった……。


私は…あの写真の日に戻って…
もう一度…
彼と…

太一と…

生き直したかった……。


望んでいたのは……


それだった……。



「たからがひかる…」

いつも呼んでた様に彼の名前を口にした。
今、これが夢でなく、本当に現実なら…
これから先、どうかこのまま…変わらずにいて。

「…私と共に歩いて…そして、一緒に…生きていきましょ……」



「エリカ…!」

包まれる温もりに、意識が薄れていく。

「たからがひかる」との初夜は、こうして過ぎていったーーー。

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