もう一度、あなたと…
「シャワー浴びに行ったまま、いつまでも戻ってこないし、ずっと水流しっ放しみたいだから、具合でも悪いのかと思って様子見に行ったんだ…そしたら頭からじゃんじゃん水浴びてて…動けなくなってて…」

大慌てで止めて、バスタオルで身体を包んでベッドへ移動した。
顔色は白くて、唇が紫色だったから、ヤバいと思ったらしくて…。

「体温上げるには、肌と肌を合わせるのが一番だと聞いたのを思い出して、自分もバスローブ脱いでベッドに入った…」

入った…と言っても、エッチした訳ではない。
意識の戻らない私の手足を、一生懸命、擦ってたんだそうだ。

「…なかなかあったまらなくてヒヤヒヤしたぞ!お前、一体なんであんな事したんだ!」

怒ったような言い方をする。無理もない。それくらいきっと心配させた…。

「…全部…夢みたいな気がして……夢なら醒めないといけないと思って……」

言い訳じみた言葉を吐く。
「たからがひかる」は呆れるように溜め息をついて、布団ごと丸まった私を抱きしめた。

「バカか!夢じゃないって、これは!」

32才バツイチだと思ってた自分の方が夢なんだと話す彼の言葉を、信じない訳じゃない。
でも一晩経っても、やっぱり実感が湧かない。
彼の温もりを肌で感じても、何も思い出せないのは事実だから…。

「エリカ…お前、一体誰と結婚した気でいたんだよ!」

「たからがひかる」の質問にギクリとする。
自分の中では夢だと思う世界に、太一の存在がいるのかどうかも分からない今、下手に話す訳にはいかないと思った。

「だ…誰って…覚えてないけど…そんな気がするの……」

ウソだというのは、当然分かったと思う。
でも、彼はそれを追いかけてまで、聞こうとはしなかった。

「そんな誰かも分からない様な奴と離婚した記憶なんて、とっと忘れろ!お前には、俺がいるんだから!」

抱きしめる腕に力が入る。
薄い羽毛布団一枚隔てた向こう側に感じる彼の体。
意識したくないと思いつつも、知らん顔はとてもできない…。


「お願い…放して…」

胸が高鳴り過ぎて、目眩がしそう。
お互い全裸でくっ付いてるなんて、今の私には刺激が強すぎる。


「……嫌だ」

ますます抱きつく「たからがひかる」の身体が硬くなる。
年甲斐もなく怖くなってきて、涙が溢れてきた。


「…お願いだから…放して下さい…」

震える自分がおかしいと思いつつも彼に頼んだ。
涙が頬を伝ってシーツの上に落ちていく。
彼を受け入れるには、気持ちの方が不安定すぎる。
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