もう一度、あなたと…
「……お…おはようございます…」

震える声をなんとか抑えた。
明るい笑顔で挨拶する太一の姿を、全く想像していなかった。

「部長、祝電有難うございました。お花まで頂いて、感謝しております」

歯切れのいい声で「たからがひかる」がお礼を言った。
記憶が混乱してパニックになってた私に代わり、両親と彼が祝電やお祝いの品物を管理した。
その内容を知らないのは私だけで、だから一緒に…と、挨拶回りにやって来たんだ。

「こっちこそ出席もできなくて失礼した。あいにく出張と重なって残念だったが…どうだ⁉︎ いい式だったか⁉︎ 」

自分の椅子に腰掛けながら聞いてくる。「たからがひかる」に手招きされ、急いで側に駆け寄った。

「おかげ様で。何事もなく無事終わりました」

大きく滞ったのに、話さずにいてくれた。
笑って話す、「たからがひかる」の顔を見つめた。


「…君はどうだ?新婚生活は楽しいか?」

急に話を振られドキッとした。

「は…はい、まあ…」

答えづらさを感じつつも辛うじて笑顔を作る。32才の私にとっても、太一が上司である事は変わらない。
だから、そのつもりで答えた。


「…新妻と同じ部署で仕事か…たまらないねぇ…」

イヤラシそうな顔でこっちを向く。一瞬、「たからがひかる」の眉間にシワが寄る。
でも彼はあえて何も言わず、言葉ヅラを合わせて自分の部署へ戻った。
デスクに帰り、椅子を引く。座ろうとした所へ舞が来て、ぎゅっと袖を引っ張った。

「…サイアクね!」

ボソボソと話しながら顔をしかめる。
舞によると、休暇の間もずっと、部長はセクハラ発言を繰り返していたんだそうだ。

「『やりたい放題で羨ましい』とか『どんな声出すんだろう』とか、そんなのばっか話してて。聞いてるこっちが辟易したよ!」

ホントに嫌そうにする。舞が太一のことをそんな風に言うのを初めて聞いた。

「そ…そうなの⁉︎ 」

少なくとも私の知る限り、太一はそんな話を職場でするような人ではなかった。
課長だった彼は、あんな大きな声で、明るく挨拶をしてくることもなかった。

(これって…やっぱり夢なんじゃないの…⁉︎ )

ある意味、そうであって欲しいと願った。
自分の知ってる人が別人みたいになってる。それが解せない気持ちだった。
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