もう一度、あなたと…
胸を擽るような甘い気持ち。
この花のことを知ってるようで知らない自分。
でも、何故かとても懐かしい…。

「……ありがとう…キレイな紫陽花ね…」

顔を近づけた。スッと微かな香りがする。
今までに知ってる花の中で、この香りが一番好きだと思った…。



短い時間、笑って話をした。
担当医が回診に来て、診察が終わった後、太一が帰る…と言ってきた。

「早く良くなれよ。また来るから」
「うん…でも、あまり来なくてもいいよ。私は、奥さんじゃないから」

ハッキリしておきたくてそう言った。
いつまでもズルズルした関係ではいたくなかった。

「分かってるよ!来たい時、来るだけだ!」

突っぱねたような言い方。
その中にいろんな感情が込められてることは、百も承知してる……。

「…ありがとうね、太一」

お礼を言って見送ろうとした。でも、ふと思いついたことがあった。

「ねぇ…私、一つお願いがあるんだけど……」

10年間、何もできなかったのは自分も同じ。
だから、その分の感謝を返したい…と思った。

「退院したら、一緒に食事してくれない?下手くそな手料理…振舞うから…」

最後の晩餐のやり直し。これを最後にして、また一から出直したい…。

「いいよ。食ってやる!ただし…」

近づいて来る。
ドキン…!と胸が鳴った。
ときめきと言うよりも、少し恐怖みたいなものを感じるーーー

「…お前の手料理は下手くそなんかじゃねーから、そんな言い方するな!」

言葉は乱雑だけど、顔は優しかった。
どこかホッとしたような気持ちになる。
どうしてかは、分からないけど……

「じゃあな!」

ぶっきら棒な横顔を見せて帰ってく。
いつも見送った背中が遠くなる。
胸に迫ってくる寂しさと哀しみ。
涙が込み上げてきても、もう二度と、あの日に戻れないーーー

(…もう一度、やり直そうと言ってくれて…嬉しかった…ありがとう……太一…)

何よりも聞きたい言葉だった。
もっと早く言って欲しい言葉だった。
叶わない夢の続きが見たいと…

思う前にーーー
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