大切なものはつくらないって言っていたくせに
軽くタオルドライしながら、龍一は不意に言う。

「一ノ瀬遥ちゃんと食事したよ。」

「え!」
俺は、龍一の顔をみる。 龍一は得意気な顔をして俺の反応を楽しんでいる。

そんな龍一に腹が立って、俺はあからさまにムッとする。

龍一は、笑いをこらえて俺を鏡の前へ促し、鏡越しで聞く。
「髪はどうする?」

俺はムスッとして目をそらし、
「任せるよ。」

「じゃ、作家さん風に。 ヒゲはそのままでいいんじゃん。」
龍一はニヤっと笑って、ハサミを使い出す。

「・・・・・・・・。」
俺は遥のことを聞き出せずに無言で龍一にされるままだ。
龍一は、俺の気持ちがわかっているのか知らんぷりでその後は何も言わない。
微妙な空気が流れる。

「聞きたくないの? 遥ちゃんのこと。」
襟足を揃えるところになって、龍一は、ニヤニヤしながら俺を鏡ごしにチラッと見て言う。

「馴れ馴れしく名前で呼ぶな。」
俺は本気で腹が立ち、龍一を睨みつける。

「おお、怖っ! 昔は、女の子共有してたことだってあったのにさ。遥ちゃんはダメなわけ?」

完全にこいつは俺をからかっている。
「あいつは、お前なんかになびかねえよ。」
俺は吐き捨てるように言う。

「燃えるねー、そうなると。」
「で、何話したんだよ!?」
俺は憮然として言う。
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