今度こそ、練愛

うろたえるのは川畑さんだったはずなのに、どうして私が……



「もしかして日中はお仕事されているんですか? だったら他の日に……」

「いいえ、大丈夫です、明日でお願いします」



余裕の感じられる川畑さんの声に反発して、半ば自棄になって答えてしまった。後悔が私を引き留めようと手を伸ばすけれど、もう手遅れ。



「では明日の午後三時に、駅前のカフェでどうでしょう?」

「わかりました、午後三時によろしくお願いします」



大変なことになってしまった。



午後三時に川畑さんと会う約束をしたものの、どうやって店を抜ければいいんだろう。
急用ができたから……とでも言えば高杉さんは快く承諾してくれそうだけれど、何事かと思われるに決まってる。



もしも、山中さんが店に来たら?



山中さんは川畑さんではなかったということが証明されるけれど、私は……




電話の向こうで川畑さんが本性を露わすかと思ったのに、逆に私がうろたえることになってしまったのは失態。
いったい何をしたかったのかと後悔し始める始末。



結局、大きな悩みを抱えたまま出社することになってしまった。


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