今度こそ、練愛

私の所へと戻ってきたのは川畑さん。



未だに震え続けるスマホを片手に握り締めたまま、私の傍で跪いた。冷却シートを貼ってくれた時と変わらない距離感なのに、彼の表情はまったく違っている。



山中さんではなく、最初に会った時の川畑さんの顔だ。



もうそろそろ留守番電話に切り替わると思われる頃。川畑さんは私の手からスマホを取り上げて、発信を切ってしまった。
まもなく彼の手の中にあるスマホの振動が止まる。



「川畑さん、ですよね?」



問い掛けた声が震えてしまう。
小さく頷いた川畑さんが、私のスマホを枕元に置いた。悲しそうに目を細めて、空っぽになった私の手を握り締める。



「今日は行けないんじゃなかったの? 改めて連絡するなら、熱が下がってからでもよかったのに」

「すみません……今日、お会いしたかったんです」

「どうして? そんなに急ぐ仕事?」



否定しようと首を振ったら、ぐらんと視界が大きく回って頭が痛い。思わず顔をしかめて目を閉じる。まぶたの裏の暗闇がふわふわ揺れて気持ち悪い。



川畑さんの手が頰を包み込んだ。
冷たいけれど優しくて、落ち着ける。



「もう休んで、良くなったら僕から連絡する、いいね?」



言い聞かせるような穏やかな口調は川畑さんというよりも山中さんのもの。




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