今度こそ、練愛
ぱたぱたと傘に打ち付ける雨音を聞きながら、私はお客さんの元へと急いでいた。
お客さんに指定された時刻は十一時。もう残り三十分もないけれど、駅から歩いて十分もかからないようだから速足で行けば間に合うだろう。
小さな丸いバスケットに活けたアレンジメントだけれど、紙袋に入れてみると幅広で大きく感じられる。紙袋の上からビニール袋を被せて雨対策は万全。
とは言え、地図を持った私の腕は傘を差していても既に濡れてしまってる。
やがて住宅地の中へと入っていった。
どこを見ても家ばかりで、こんなところに会社なんて無さそうな雰囲気。地図に書いたお客さんの会社名を確認しながら、住宅地の中を進んでいく。
電柱に掲げられている番地を確認してみると、そろそろ近いようだ。
でも見渡す限り家が建ち並んでいて、会社があるようにはとても思えない。
本当に合ってるのかな……
もしかすると家兼会社なのかもしれない。いや、会社名には『上西製作所』と書いてあるから違うかも。
いろんなことを考えながら、やっと指定された住所に到着。
だけど、どう見ても普通の家。
表札の名前と会社名も違う。
表札の下に掲げている番地は合っているのに。