今度こそ、練愛

いつの間に外したのか、シートベルトが腕に絡まってる。ぐいと引き寄せられて、息が出来ないほど強く抱きしめられた。



「だから困っているんだ、本気になってしまったものはどうしようもないだろう」

「困るって……、だったら婚約なんてしなかったら……」



山中さんの声を聴きながら、腕から逃れようとするけど無駄なあがき。せめて屈することのない言葉を浴びせてみても、反論になりきらない。



腕の中でもがきながら、なんとか顔を上げると山中さんと目が合った。



「有希、好きになってもいいか?」



柔らかに微笑んだ山中さんの目は穏やかで、初めて見た時の冷ややかさは全くない。抱かれている腕の強さと温もりが、体にじんじん沁みてきて愛おしさが込み上げる。



やっぱり私は、山中さんが好きなんだ。
実感させられてしまったら、どうしようもなく恥ずかしくなって答えを返すことができない。



「有希に会った時、初めて君の仕事を請け負った時に思ったんだ。本気で守りたい」



山中さんの声が身体中に染みていく。
熱を帯びてくる顔を見られたくないのに身動きすら取れない。



「でも、あなたには……」



言いかけた言葉を封じるように唇を塞がれた。私の言いたかったことをすべて消し去ろうとするような力強さと温もりが、私の中へと入り込んでくる。



私も……
心の中で叫んだ。







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